クレオパトラは
エッセンシャルオイル(精油)を使っていたのか?

エッセンシャルオイル(精油・アロマオイル)

インターネット上でローズフランキンセンス(乳香)ジャスミンなどを「エジプトの女王、クレオパトラの使っていたエッセンシャルオイル(精油)」として紹介している情報を見かけることがあります。


確かに、映画やマンガ、小説等では、クレオパトラはローズやジャスミンの香りを身に纏ってカエサルやアントニウスを虜にした美貌の女性として描かれることがあります。ところが、クレオパトラが活躍したのは紀元前1世紀中ごろのことです。一方で、エッセンシャルオイル(精油)を抽出する「水蒸気蒸留法」の技術が確立したのは、それより約1000年後、10〜11世紀頃のことです。つまり、クレオパトラがエッセンシャルオイル(精油)を使っていたという話は完全な誤りなのです。


10世紀よりも古い時代のパキスタンの遺跡から、水蒸気蒸留に使われたのではないかと推測される器具の痕跡が発掘されていますので、もっと早くにエッセンシャルオイル(精油)の生産を行っていた文明があった可能性はありますが、残念ながらクレオパトラの時代のエジプトにはエッセンシャルオイル(精油)の製造技術は存在しませんでした(注1)。


このような誤った情報を堂々と掲載しているウェブサイトは、明らかにエッセンシャルオイル(精油)についての基本的な知識が無い人によって書かれていますので注意が必要です。


クレオパトラはローズやジャスミンの香りを大変好んだそうですが、彼女が使っていたのは「香油」でした。「香油」とはバラやジャスミン等の花を植物油に漬け込んで作る浸出油で、クレオパトラはそれを身体に塗ることで香りを身に纏っていました。男性を誘惑する際に香りの力を借りていたようです。


水蒸気蒸留法や溶剤抽出法のように精油成分のみを効率よく分離する技術がなかった時代、香油を作るには大量の花弁が必要でした。香油の使用は絶大な富と権力を持つごく一部の者のみに許された贅沢で、その希少性から効果は絶大だったに違いありません。


この時代には、ローズやジャスミン以外にもフランキンセンス(乳香)ミルラ(没薬)等の香りが祭事などに使われていましたが、利用されたのはやはりエッセンシャルオイル(精油)ではなく、樹脂や木を燃した薫香でした。


エッセンシャルオイル(精油)の生産が行われるようになったのは、10〜11世紀に活躍したイブンシーナ(アビセンナ、 アビケンナ、アウィケンナ)というペルシア(現在のイラン)の天才的な科学者が水蒸気蒸留法を開発した後です。水蒸気蒸留の技術は、その後十字軍によってヨーロッパへもたらされ、ハーブ医学、僧院医学に受け継がれていきます。こうして広まったエッセンシャルオイル(精油)の利用は、やがて20世紀に始まる近代アロマテラピーへと繋がっていきます。



(注1)古代エジプトでは、ミイラの防腐処理にシダーウッドから抽出された液体が使用されていました。推測の域を出ませんが、その液体は「蒸留」によって製造されたのではないかと考えられています。ただし、エッセンシャルオイル(精油)を完全に植物から分離する技術はまだ無かったと考えられています。



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