猫に対するエッセンシャルオイル
(精油・アロマオイル)の危険性

猫とエッセンシャルオイル(精油・アロマオイル)

「エッセンシャルオイル(精油)は猫にとって危険」「中毒を引き起こすことがある」という話を聞いたことはあるでしょうか?

実はエッセンシャルオイル(精油)はネコ科の動物には、人間や犬等他の動物とは違った危険性があります。ご家庭で猫を飼っている方は注意が必要です。

皮膚からの吸収による猫の中毒症状・・・具体例

猫に対するエッセンシャルオイル(精油)の有害性が始めて疑われたのは1990年代の初頭でした。ティートゥリー配合のシャンプーやノミ防除用商品を猫に対して使用した後に具合が悪くなるケースが散見され、経皮吸収されたティートゥリーが中毒症状を引き起こしているのでは?という疑いが浮上しました。


その後もアメリカのNational Animal Poison Control Center (NAPCC)(動物中毒事故管理センター)には、ティートゥリーによる猫の中毒事例の報告が続きました。そのほとんどは高濃度でティートゥリーが配合された商品を皮膚に対して使用したケースでした。


これを受けてアメリカでは猫用シャンプー等のティートゥリー配合比率を1%以下にすべきとの勧告がなされました。また、糖尿病やてんかん等、特定の疾患を持つ個体や肝臓が未発達な子猫の場合は、1%以下の配合量でも使用を避けるべきとされました。


具体的な中毒症状は運動失調、筋肉の震え、抑うつ状態、異常行動、嘔吐、めまい、失禁、食欲の減退、活力喪失など多岐に渡り、ティートゥリーを皮膚に使用してから2〜8時間の間に起こるとされます。皮膚の適切な洗浄、点滴や下剤の投与など獣医師が適切な処置を早期に行えば、通常は2〜3日で回復するとされています。


こうした症例についてより詳しく調べるため、1998年にコーネル大学の研究者によって実験が行われました。ノミが大量に寄生している3匹のアンゴラ猫の毛を剃り、皮膚に対してティートゥリーが高濃度で配合された市販のノミ除け商品を使用するというものです。結果、約5時間後に3匹全てに中毒症状が現れ始めました。猫(A)は低体温、運動失調、起立不能。猫(B)は脱水症状に陥り昏睡状態。猫(C)は神経過敏、震えの症状が出ましたが運動失調はわずかに見られただけと、個体によって症状の強さにはかなり開きがありました。


3匹の尿からはいずれも「テルピネン-4-オール」(ティートゥリーの構成成分)等、ティートゥリーが体内に取り込まれたことを示す成分が検出されました。その後3匹には皮膚洗浄がなされ、治療が施されました。AとCの猫は治療後2日後に完全に回復しましたが、最も症状の重かったBの猫は一時回復したものの、残念ながら3日目に亡くなってしまいました。ノミの感染が酷かったため皮膚に傷口があったことと、毛を剃って実験を行ったためティートゥリーの吸収速度が非常に早かったこと、更には使用した商品が高濃度のものであったことが重なって中毒が重いものになったと考えられています。

ネコ科の動物はエッセンシャルオイル成分を上手く代謝できない

ティートゥリーは抗菌・消臭効果が優れている上、ノミやダニ、皮膚トラブルに対して有効であるため、家畜やペット用のシャンプーやノミ・ダニ防除用商品によく配合されています。実際に欧米やオーストラリアでは以前から犬や馬、羊に対して使用されており、問題が起こったことはありませんでした。


ところがネコ科の動物は遺伝的にエッセンシャルオイル(精油)の成分を上手く代謝することができないことが近年判ってきました。同じペットでも犬は雑食で、穀類などの植物性の食べ物も人間と同じように消化、吸収することができます。馬や羊は草食ですので、もちろん植物を消化します。


一方、猫は完全な肉食動物で、植物を栄養として利用することができません。猫がエッセンシャルオイル(精油)を上手く代謝できないのは、こうした食性の大きな違いと関連があるようです。猫と同様に完全な肉食動物であるフェレットも、やはり猫と同じようにエッセンシャルオイル(精油)に対する中毒症状を示すことがあると言われています。


人間や犬などの動物は、体内に取り込まれたエッセンシャルオイル(精油)の成分を肝臓が代謝して最終的には尿と一緒に体外へ排出します(※注1)。ところが、猫の場合この代謝に必要な「UDP-グルクロン酸転移酵素」を体内で十分作れないことが近年わかってきました。このことが、毒物を上手く解毒できずに中毒を引き起こしてしまう原因となっているようです。

なかなか広がらなかった危険性への認識

上で見たように危険性は1990年代初頭に懸念され、1998年には少なくともティートゥリーに関しては明確になっていました。ところが、この認識はなかなか広まりませんでした。


人間や犬、馬や羊に対しては問題が起こらなかったことと、「自然由来のもの=安全」という必ずしも正しくないイメージを持つ人が多いことが背景にあると思われます。2000年代初頭に販売されていたアロマテラピー関連の書籍には、海外のもの日本のものいずれも、ノミやダニ対策としてエッセンシャルオイル(精油)を材料にして作ったスプレーや首輪をネコに対して使う方法を紹介しているものが沢山ありました。また、インターネット上では今現在(2014年7月)でも同様の情報が沢山見られます。恐らく過去に出版された書籍などを参考にして書かれているものと思います。


もちろんスプレーや首輪の場合、高濃度のシャンプーやノミ・ダニ対策商品とは異なり、経皮吸収される量が限られるため、実際に中毒症状が出る危険性はかなり低いのではないかと思われます。とはいえ、やはり猫の皮膚に触れる形でエッセンシャルオイル(精油)を使うべきではありません。ノミ・ダニ対策であれば、獣医師によって処方される動物用医薬品を使うべきです。

ティートゥリー以外のエッセンシャルオイル(精油)は安全?

上で見たように最初に大きな問題になったのはティートゥリーです。では他のエッセンシャルオイル(精油)はどうでしょうか? これに関しては、いろいろな情報があり、何が正しいかわからず戸惑っている方も多いのではないかと思います。


実のところ、他のエッセンシャルオイル(精油)については、どの程度の危険性があるかはっきりしたことは判っていません。毒性がどの程度かを知るには、実際に使用した際にどのような影響が出たかを調べる疫学的なアプローチが必要ですが、これは簡単なことではありません。


加えて、エッセンシャルオイル(精油)特有の問題が情報をさらに混乱させている面があるようです。同じ原料植物から生産されたエッセンシャルオイル(精油)であっても、気候条件などの生育環境などによって内容成分が大きく異なることがあります。つまり、同じ名前のエッセンシャルオイル(精油)であっても、猫に対する実際の影響は異なることがありえます。


また、異なる植物が同じ名前で呼ばれいるケースは沢山あり(※注2)、猫に対するエッセンシャルオイル(精油)の危険性に関する文献に登場するオイルがどの植物種から得られたものを指しているのか判然しないものや、明らかに違う植物種を混同して記載している例があるからです。


例えば、真正ラベンダーとスパイクラベンダーはいずれも単に「ラベンダー」と呼ばれることがありますが、両者から得られるエッセンシャルオイル(精油)の成分は大きく異なります。スパイクラベンダーには猫に有害とされるケトン類(カンファー)が多量に含まれていますが、真正ラベンダーにはほとんど含まれていません(但し生育条件によっては多少含有量が増します)。猫に対するエッセンシャルオイル(精油)の危険性について書かれた情報の中には明らかに両者を混同しているものを頻繁に見かけます。恐らく真正ラベンダーはスパイクラベンダーほど危険性は大きくないのではないかと思われます。


このような混乱はあるものの、各エッセンシャルオイル(精油)を構成している成分のうち、フェノール類、ケトン類、ピネン、リモネンの4種は猫に対する毒性が特に高いと言われています。これらの成分が多く含まれている代表的なエッセンシャルオイル(精油)は以下のようなものです。ティートゥリー同様猫を飼っている方は注意が必要です。


フェノール類を多く含むもの
ケトン類を含むもの
リモネンを多く含むもの
ピネンを多く含むもの

但し、これらはあくまで4成分が多く含まれている代表的なものです。他のエッセンシャルオイル(精油)も微量であってもこれらの成分のいずれかが含まれていることがほとんどです。また、この4成分以外にも危険性のある成分は恐らくあるのではないかと考えられています。


では、どうしたら良いのでしょうか?


この問いに対して、一つの明確な答えは以下のものです。


  1. 1. 猫の皮膚にはいかなるエッセンシャルオイル(精油)も使用しない
  2. 2. 絶対に猫がエッセンシャルオイル(精油)を舐めないようにする

実際には猫の皮膚に対して使用しても危険のないエッセンシャルオイル(精油)もあるかもしれません。とはいえ、無理にエッセンシャルオイル(精油)を使わなければならない理由がない以上、わざわざリスクを取る必要はないでしょう。繰り返しになりますが、 ノミ・ダニ対策であれば、獣医師によって処方される動物用医薬品を使うべきです。

アロマをお部屋に炊くだけの芳香浴も猫に危険?

ここで次の疑問が涌くと思います。「皮膚に対して使わない」「舐めないようにする」という2点は守ったとして、アロマランプやディフューザーを使って単にお部屋にエッセンシャルオイル(精油)を香らせる場合はどうなのか?という疑問です。


これまで、お部屋にアロマ(エッセンシャルオイル)を炊いたことが原因で、猫が中毒症状を起こしたとする信頼できる報告例はないようです。少なくとも上で示した経皮吸収による急性中毒のようなことが芳香浴で起こることはないようです。


一方で長期的には芳香浴であっても影響が出る可能性を懸念する獣医師もいるようです。獣医師の中には、エッセンシャルオイル(精油)の成分は代謝・排出されずに猫の体内に蓄積されていく可能性があるという人がいます。


エッセンシャルオイル(精油)をお部屋に香らせた場合、経皮吸収に比べると遥かに微量ではありますが、空気中に漂う成分が肺などの呼吸器から取り込まれて血流に乗ります。もしも取り込まれた成分が重金属のように排出されにくく、長期間に渡って少しずつ蓄積していくのであれば、お部屋に香らせるだけでも長年の後に健康に問題がでる可能性があるかもしれません。


但し、この考えには疑問が呈されています。エッセンシャルオイル(精油)というものはそもそも自然界に存在しているものです。日本にもツシマヤマネコやイリオモテヤマネコのように森の中で暮らす野生の猫がいます。世界には更に沢山の野生のヤマネコが生息しています。こうした猫は森の植物から揮発するエッセンシャルオイル(精油)成分を生まれた瞬間から日々吸い込んで暮らしているはずです。


ツシマヤマネコのいる対馬やベンガルヤマネコのいるインドシナ半島には、クスノキが沢山自生しています。クスノキの葉や枝は独特の強い樟脳の香りがしますが、これは猫に有害とされるカンファーを多量に含むエッセンシャルオイル(精油)が揮発しているためです。


微量の空気中のエッセンシャルオイル(精油)に晒されるだけで、それが蓄積していって害になるというのであれば、こうした環境に生まれた時から暮らしている野生のヤマネコはどうしてこれまで生き残ってこれたのだろう?という疑問が湧きます。


また、エッセンシャルオイル(精油)は有機化合物で金属のように安定した物質ではありません。放置すると変化していく性質のものです。この点から言っても、安定した無機物である重金属と同じように体内で働くという推測が成り立つのか疑問です。


さらには、急性中毒を起こした猫も上でみたように適切な処置が早期に行われれば十分回復するようです。こうしたことから考えて、呼吸器から取り込まれるごく微量の成分が体内に蓄積し、排出されずに後に問題が起こるという考えは少し過剰ではないのかという見方が強いようです。


いずれにしても、お部屋にアロマを軽く香らせることによって上記でみた経皮吸収のような中毒症状が起きることは心配しなくて良いでしょう。芳香浴の長期的な影響については、今後の研究の進展が待たれるところです。

ハイドロゾール(芳香蒸留水)について

エッセンシャルオイル(精油)の代わりに、ハイドロゾール(芳香蒸留水)を使うべきだという意見があり、それに対してハイドロゾール(芳香蒸留水)であっても猫に対しては危険性がある等という人もいるようです。


率直に言うと、こうした議論はかなりナンセンスです。 恐らくハイドロゾール(芳香蒸留水)が何であるのか判っておられない方の議論であると思われます(※注3)。

ハイドロゾールはエッセンシャルオイル(精油)を生産する際に得られる副産物です。その成分のほとんどは単なる水(蒸留水)です。水以外には微量の水溶性の芳香成分が含まれています。生産時に蒸留水と分離しきれなかったエッセンシャルオイル(精油)が微量残っている場合もありますが、ほんの僅かで無視してよい含有量です。


ハイドロゾール(芳香蒸留水)には微かな香りはありますが、エッセンシャルオイル(精油)のような強い香りはありません。「ほぼ水」なので当然の話ですが、ハイドロゾール(芳香蒸留水)は消臭目的、殺菌目的、ノミ・ダニ対策のいずれでもエッセンシャルオイル(精油)の代用品としては全く役立たないものです。猫に対して使用しても有用性もない代わりに危険性も無いと言って良いでしょう。

ただし、ハイドロゾールに他の成分を添加して化粧品として販売している商品も見かけます。そうした商品にも「ハイドロゾール」、またはハイドロゾールの別称である「芳香蒸留水」「フローラルウォーター」「ハーブウォーター」といった名前が書かれていることがありますので、少し注意が必要です。


(※注1)厳密には呼気、大便からも微量の排出があります。


(※注2)植物の名称のあいまいさについて:

例えば、シダー(シダーウッド)と呼ばれる植物は、ある地域ではマツ科のシダーウッド・アトラス(学名:Cedrus atlantica)を指し、別の地域ではヒノキ科のシダーウッド・バージニアン(学名:Juniperus virginiana)を指します。両者は全く異なる植物種で、得られるエッセンシャルオイル(精油)は当然成分内容も全く異なります。また、ユーカリには500を越える種類があり、うち約15種のエッセンシャルオイル(精油)(ユーカリ・グロブルスユーカリ・ラジアータユーカリ・シトリオドラ(ユーカリレモン)等)が生産・流通していますが、これらの成分内容も異なります。

(※注3)上でご説明の通りハイドロゾルは「ほぼ水」であるにも関わらず、『ネコがいるお部屋では、ハイドロゾルのアロマをたくことも避けたほうが良い』といった説明をしている方がおられました。エッセンシャルオイル(精油)をアロマランプやポットで炊いてお部屋に香らせることはありますが、ハイドロゾールを炊くことはありません。炊いたところでハイドロゾールは香りがしませんし「ほぼ水」のため、水蒸気になるだけで無意味です。(ハイドロゾールは、手作り化粧水の基材やクリームの材料として利用したり、そのままで化粧水の代用として使うものです。)



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