アロマのやさしさ スキンローション開発物語
1. 清流の流れる山村へ
夏も終わりに差し掛かったある日、静岡県のとある駅から車に乗って、大きな川沿いに山道を登っていきました。急峻な山間をうねりながら流れるこの川は、昔から幾度となく氾濫を起こし近隣の人たちを悩ませてきたそうですが、一方で肥沃な土壌を上流から運んでくるため、川の周囲は農業にとても適した土壌になったようです。
車は途中で西に向きを変え、本流を離れて木曽山脈を源流とする小さな支流沿いを走っていきます。駅を出発してから既に2時間。広かった川幅は緑が深まるにつれて少しずつ狭くなり、道も険しくなっていきます。車があまり得意でない私は、だんだんと気分が悪くなり始めてしまいました。
今回の出張の目的は、開発中の化粧水の原料として採用を検討しているヘチマの栽培地の視察です。木曽山脈から流れ出る清流の水を使った、完全無農薬・無化学肥料の有機栽培を行っているところがあると聞きつけ、現地の栽培状況を実際に見に行くことにしました。
ヘチマから得られるヘチマ水は、室町時代から化粧水として使われてきた日本人には馴染み深いものです。ところが、近年では、ご多聞に漏れず中国産を始めとした輸入ヘチマ水が大量に流通しています。大きなバルク容器に充填して日本へ運ばれるヘチマ水は、化粧品の原料用としても安価で取引され、様々な商品に使用されています。
一方で、国内産のヘチマ水も一定量生産されていますが、品質は栽培地によって様々です。ヘチマは水を土から吸い上げ、有用成分と共に実や茎の内部に大量に蓄えていきます。このため、ヘチマ畑に供給する水の品質が、そのまま商品の品質と安全性に繋がります。その水が工場や生活排水の流れ込む環境にあったら・・・。単に国産というだけでは安心して原料としての採用を決められないため、実際に栽培地を見に行くことにしました。
山道を走ること約3時間。小さな集落を過ぎ、廃校になった小学校の脇を抜けて、さらに上流へ進んだところでようやく車は止まりました。小高い山に囲まれる谷間、木曽山脈を水源とする清流の水面に、太陽の光が静かに反射しています。車から降りて、徒歩で川に向かってゆっくり下りていくと、鮮やかな葉をつけたヘチマ畑が目に飛び込んできました。